債務整理|不正融資の証拠隠し?

原告
被告
説明


主文

1 被告が,原告に対し平成15年9月8日付けでした,岩槻都市振興株式会社作成の「再建計画書」を非公開とする決定を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 事案の要旨
埼玉県岩槻市の住民である原告が,岩槻市情報公開条例(平成10年12月24日条例第28号。以下「本件条例」という。)に基づき,被告(岩槻市長)に対し,岩槻都市振興株式会社(以下「本件会社」という。)への貸付けに関して本件会社より市に提出された「再建計画書」(以下「本件文書」ともいう。)等の公開を請求したところ,被告が,平成15年9月8日付けで,本件文書の不存在を理由に非公開とする決定(以下「本件処分」という。)をしたため,原告が本件処分の取消しを求めた事案である。
本件の争点は,本件文書は,実施機関である被告が職務上取得した文書で,実施機関である被告において保有しているものといえるかどうか(本件条例3条2号該当性)である。
2 基本的事実関係(証拠等の摘示のない事実は,争いのない事実である。)
(1) 当事者等
原告は,岩槻市内に住所を有する同市の住民であり,被告は,本件条例3条1号所定の実施機関である岩槻市長である。
本件会社は,岩槻市の67%の出資を受けて平成6年11月10日に設立されたいわゆる第3セクターであり,岩槻市長であるaが本件会社の代表取締役を務めている。
(2) 本件文書等の提出状況
平成14年第3回臨時会において後記(5)の貸付けに関して審議するため,b参事(当時)は,本件会社から説明資料として以下の@ないしMの文書の提出を受け,市議会終了後である平成14年8月中旬ごろ@ないしGの文書を本件会社に返却した。
@再建計画書(本件文書)
AWATSU東館共有者賃料等一覧表
(氏名,所有面積,損害保険,修繕積立金,会費,委託料,賃料,合計)
Bテナント保証金,敷金一覧表
Cテナント売上高一覧表
Dテナント月額賃料一覧表
EWATSU東館管理費年額比較表
Fマイカル岩槻店損益分析表
G本件会社の出資者(株主),出資額の一覧表
H契約変更合意書
I変更確認書
J本件会社損益シミュレーション
K本件会社第8期営業報告書及び決算書
L本件会社借入金及び償還明細一覧表
(3) 本件処分の経緯等
ア 原告は,平成15年8月25日,本件条例に基づき,被告に対し,「平成14年7月臨時会で審議された第3セクターへの貸付条例の際に,第3セクターの会社より,市に提出,提供された『再建計画書』(本件文書)等あらゆる文書」について公開を請求した(甲1)。
イ 被告は,平成15年9月8日付けで,原告に対し,以下@ないしCの文書を公開したが,本件文書については岩槻市が所有していない(不存在)ことを理由として,非公開とする決定(以下「本件処分」という。)をした(甲2)。
@「当社への支援要請について(お願い)」と題する書面1枚(甲3)
A上記要請に添付された損益「シミュレーション」2枚(乙2。以下「本件シミュレーション」という。)
B第3回臨時岩槻市議会議案参考資料8枚(乙3)
C本件会社参考資料24枚(乙4)
ウ 原告は,本件処分を不服として,平成15年9月30日,岩槻市情報公開及び個人情報保護審査委員に対し,不服申立てをしたところ(甲6),同委員は,同年10月27日付けで,被告に対し,下記のDないしHの文書を公開するように勧告したが,本件文書については,被告が保有管理していることが確定できないため,非公開とした本件処分は違法ないし不当とはいえないとした(甲7)。
D平成14年8月5日付け申請者本件会社作成の岩槻市長a宛「本件会社経営安定化資金貸付申請書」1枚(乙5)
E振込先をあさひ銀行岩槻支店 普通口座○○○○○○○等とする「本件会社経営安定化資金貸付金の振込依頼書」1枚(乙6)
F同日付け債務者本件会社作成の岩槻市長a宛確約書1枚(乙7)
G同日付けの債権者岩槻市長a債務者本件会社間の金銭消費貸借契約書4枚(乙8)
H同日付け同当事者間の金銭消費貸借契約(追加)書1枚(乙9)
そして,被告は,平成15年11月5日付けで,原告に対し,上記DないしHの文書の公開を決定した(甲8)。
エ そこで,原告は,本件文書が非公開とされたことを不服として,平成15年12月5日,本訴を提起した。
(4) 本件貸付け
ア 岩槻市は,平成14年8月5日,本件会社との間で下記の約定で金銭を貸し付ける旨の契約(以下「本件貸付け」という。)を締結した(甲9)。
金額 18億7000万円
貸付年月日 平成14年8月8日
最終弁済期限 平成47年7月31日
利率 0.02%(年365日の日割計算)
イ 岩槻市中心市街地活性化のための岩槻都市振興株式会社経営安定化資金の貸付けに関する条例(平成14年8月5日条例第21号。以下「本件貸付条例」という。)の定め(弁論の全趣旨)
「第4条(貸付けの手続)
本件会社は,貸付金の貸付けを受けようとするときは,規則で定める申請書に必要な書類を添えて,市長に提出するとともに,速やかに市長と契約を締結しなければならない。」
ウ 岩槻市中心市街地活性化のための岩槻都市振興株式会社経営安定化資金の貸付けに関する条例施行規則(平成14年8月5日規則第38号。)の定め(弁論の全趣旨)
「第3条(貸付けの手続)
本件会社は,貸付金の貸付けを受けようとするときは,岩槻都市振興株式会社経営安定化資金貸付申請書に次に掲げる書類を添えて,市長に提出するとともに,速やかに市長と金銭消費貸借契約書により契約を締結しなければならない。
(1) 会社再建計画書
(2) 貸付けに係る返済計画書
(3) 前2号に掲げるもののほか,市長が必要と認める書類」
(5) 岩槻市情報公開条例(平成10年12月24日条例第28号。平成15年4月1日施行の改正後のもの。本件条例)には,次のように定められている。
「第1条(目的)
この条例は,情報の公開を請求する市民の権利を保障するとともに,情報の公開に関し必要な事項を定めることにより,市民の市政に対する理解と信頼を深め,もって公正で開かれた市政の一層の推進に資することを目的とする。
第2条(基本理念)
情報の公開は,地方自治の本旨に基づき,情報は市民と市の共有財産であるという認識の下に,市民が知りたいときに自由に知り得るよう知る権利を明らかにし,市民による市政の監視を図るとともに,市の諸活動について説明する責任を全うすることによって,透明性を確保した市政の確立を図ることを基本理念とする。
第3条(定義)
この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
(1) 実施機関 市長,教育委員会,選挙管理委員会,公平委員会,監査委員,農業委員会,固定資産評価審査委員会及び議会をいう。
(2) 情報 実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フィルム及び電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によって認識することができない方式で作られた記録をいう。)であって,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。
第4条(実施機関の責務)
実施機関は,この条例の解釈及び運用に当たっては,情報の公開を請求する市民の権利を十分尊重するとともに,個人に関する情報をみだりに公開することのないよう最大限の配慮をしなければならない。
第20条(出資法人等への要請)
1 市が出資その他財政支出等を行う法人であって,実施機関が定めるもの(以下この条において「出資法人等」という。)に対し,この条例の規定による市の施策に準じた措置を講ずるよう要請するものとする。
2 出資法人等は,この条例の趣旨にのっとり,前項に定める必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
3 略」
3 当事者の主張
(1) 原告
ア 本件文書は,18億7000万円という多額の金銭消費貸借契約の一番重要な資料であり,本来大切に保管されるべきものである。
その保有を放棄して本件会社に返還するとは考え難い。
本件文書は,市長宛に提出されたものであり,本件文書の性格上,元の契約が完了するまで被告が取得し管理していると考えるのが相当である。
イ 本件貸付けの相手方である本件会社は平成6年11月10日設立の株式会社であるが,その株の67%を岩槻市が出資しているいわゆる第3セクターの会社である。
岩槻市は平成14年12月議会で本件条例の一部改正を行い,平成15年4月1日より,本件会社に対し,市に準じた情報公開を行うよう努力規定を定めた。
いまだ上記規定に基づく要綱は定められてはいないが,改正された条例の定めに従い,本件会社には情報の公開に応じる義務がある。
また,本件会社の代表取締役は岩槻市長aであり,本件情報の入手は極めて容易で,事実上岩槻市長の管理の下にあるものといえる。
ウ 本件貸付条例施行規則は,4条において,申請書に添付する書類として「再建計画書」以下を規定している。
ここで「添付」とある以上は,通常返却を意味せず,保管書類と解すべきである。
エ したがって,物理的に存在しなくても,もともと市の公文書であり,速やかに容易に入手できるところに保管してある文書を非公開にすることは,本件条例1条に定めた「市民の知る権利」の保障という点からも違法というべきである。
(2) 被告
ア 本件文書は,議会審議の用に供する目的で説明資料として本件会社より借用したが,平成14年8月ころ本件会社に返却している。
議会担当者が資料として本件会社から預かっていたにすぎないものは公文書ではない。
借りてきたものをすべてコピーして市に保存すべき義務はない。
イ 本件貸付けは,貸付けの相手方を本件会社に特定し,貸付額・貸付けに係る金利・償還方法なども明記した本件貸付条例に基づくものであるから,市議会の条例が成立した時点において,既に審査を通ったことになるから,あらためて審査書類を提出する必要はなく,同条例も別途審査基準を設けてはいない。
また,実質的に見ても,本件貸付けの相手方である本件会社は岩槻市が中心となって設立されたいわゆる第3セクターであって,その経営内容を岩槻市は十分把握している。
ウ 本件貸付条例4条では,「規則で定める申請書に必要な書類を添えて」と規定され,これを受けて同施行規則3条では「会社再建計画書」を添付すべきことが規定されている。
しかしながら,この同施行規則3条でいう「再建計画書」は,原告が求める「再建計画書と題する書面」を意味してはいない。
本件貸付条例の議会における質疑応答において,「再建計画書と題する書面」の存否確認・提出要求がなされたが,これに対して,「今回の資料には第3セクターの経営再建計画のような資料がないが,これはどういうことかということでございますが,これにつきましては数字上で表して示させていただいたものが,お手元にお出しさせていただいております損益シミュレーションでございます。これを文書化したものにつきましては本件会社が保有しております。」,「再建計画書につきましては,全くこの内容が,数値で示したものがお手元にお配りしたシミュレーションでございます。それで,この関係については省略させていただいたということでございます。」との答弁がなされている。
すなわち,再建計画書の内容を数値的に示した本件シミュレーションをもって再建計画書と扱うことを明言しており,抽象的な文章での再建計画書は提出しないと明確に説明されている。
本件貸付条例及び同施行規則はその質疑・答弁の後に成立したものである。議会においては本件シミュレーションが再建計画書そのものであり,文章化された書面は提出の必要がないと答弁した後に,それと矛盾するような規則を制定するわけがなく,したがって,同施行規則にいう「再建計画書」も議会におけると同様に本件シミュレーションをもって再建計画書と扱う趣旨である。
実質的に見ても,抽象的な文章による説明よりも数字で示したものの方がより具体性があり,項目ごとに検討しやすく,文章での説明は不必要である。
そして,現に,貸付申請時においても本件シミュレーションのみを添付してもらっており,文章化された「再建計画書」と題する書面は市では収受・保管はしていない。
この取扱いは何ら規則に違反していない。

第3 当裁判所の判断

1 判断
(1) 本件条例において公開の対象となる情報は,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書等で,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいうところ(本件条例3条2号),ここにいう「組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有している」とは,職員が個人的にではなく,組織としての共用文書の実質を備えた状態,すなわち,当該実施機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されている状態での所持を意味すると解される(なお,総務省行政管理局編・「詳解情報公開法」24,25頁参照)。
ところで,本件処分は,文書の不存在を理由として非公開決定がなされたものであるが,文書の不存在を理由とする非公開決定の取消訴訟において,当該文書の存否に関する立証責任は,第一次的には原告側にあると解される。
しかし,例えば意図的に実施機関の側で当該文書を公開請求の対象となくするために外部に移したり,法令等の定めにより本来実施機関の側で当然保存・保管しておかなければならない文書であるにもかかわらず,法令の誤解や職務懈怠等の理由により保存,保管義務を果たしていず漫然そのような状態を放置していると認められるような場合には,公開請求時に実施機関において文書を所持してなかったとしてもそのことから直ちに文書不存在を理由に非公開処分とすることが相当とはいえない。なぜなら,公開請求時に,物理的に保管していなければすべて公開の義務を免れるとすれば,実施機関に当該文書等を保存,保管すべき義務が法令等に定められているにもかかわらず,そのような権限の行使又は保管の義務を怠ることによって公開の義務を免れることになり,情報が市民と市の共有財産であるという認識の下に,市民に自由に知り得るよう知る権利があるとして定めた本件条例2条の基本理念に反することにもなり,妥当ではないからである。
そこで,法令等の定めにより本来実施機関において当然保有していると考えられる文書について公開請求があった場合,たとえ請求時に物理的には実施機関がそれを所持していなくとも,実施機関において外部の法人等から当該書類の提出を求める権限があり,それを求めることに特段の支障が窺われず,当該文書をいつでも自己の管理支配下に移すことができると認められる場合には,社会通念上「保有」に準じ又はこれと同視し得る状態にあると認めるのが相当であり,こうした文書について公開請求がなされたときは,実施機関としては,合理的理由を示さないまま漫然文書不存在を理由に非公開処分をすることは許されず,むしろ,外部法人等から文書の提出を求め,その上で公開すべき義務があるというべきである(松井茂記「情報公開法」第2版93頁等参照)。
(2) これを,本件についてみるに,本件貸付条例及び同施行規則によれば,岩槻市が本件会社に貸付けをする際には,貸付けの手続として本件会社は本件会社経営安定化資金貸付申請書に本件文書を添えて市長に提出し,速やかに市長と貸付けに関する契約を締結しなければならないとしており,現に本件貸付条例及び同施行規則に基づき,岩槻市と本件会社は金銭消費貸借契約を締結している。
同施行規則3条が,本件貸付けに際して本件会社に「会社再建計画書」等の文書の提出を義務づけた趣旨は,本件会社の経営状況等から貸付けの公益性や貸付金返済の見通し等を判断し,もって本件貸付けの適正化を図るところにあると考えられる。
とすれば,同施行規則3条に基づき,被告には本件貸付けに際して本件文書の提出を求める権限があることはもちろん,本件文書について相当期間保存・保管義務があると認められる。
そして,本件貸付けが18億7000万円という多額の貸付けで,本件文書は,平成14年第3回臨時会の本件貸付けに関する審議の際に本件会社から提出を受けていること,本件会社は岩槻市の67%の出資を受け,岩槻市長であるaが本件会社の代表取締役を務めていることをも併せ考えれば,被告が本件会社に本件文書の提出を求めることは容易であり,これが困難である等の事情は本件証拠上全く窺うことはできない。
そうすると,本件文書は,本件条例3条2号にいう「実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているもの」に準じ又は同視しうる状態にある情報というべきであるから,被告には公開の義務があり,仮に本件文書の公開請求時に被告において本件文書を物理的に所持していなかったとしても直ちに不存在を理由に非公開決定をすべきものではなく,すみやかに本件会社に本件文書の提出を求め,所要の手続きを経た後,原告に公開すべき義務があったものと認められる。
(3) 被告は,議会の答弁において,再建計画書の内容を数値的に示した本件シミュレーションをもって再建計画書と扱うことを明言しており,抽象的な文章での再建計画書は提出しないと明確に説明されているから,本件貸付条例施行規則にいう「会社再建計画書」も議会におけると同様に本件シミュレーションをもって再建計画書と扱う趣旨である旨主張するが,採用できない。
本件文書の公開請求は,本件貸付条例及び同規則成立後約1年以上経過した後になされたものである。
そして,本件貸付条例施行規則3条に定める「会社再建計画書」は,その字義に即した解釈をすべきであって,本件会社の再建計画の概要を文章等によって表現したものを指すと認められる。
本件貸付条例の市議会審議の過程でいかなる議論がなされようと,それ自体は同施行規則解釈の決め手となるものではない(なお,被告は,本件シミュレーションとは別に会社再建計画書が存在し,本件会社からその提出を受けたことがあることを自認している。)。
そうすると,本件貸付条例施行規則3条に定める「会社再建計画書」とは本件シミュレーションのことであるという被告の主張は理由がなく,採用できない。
2 結論
以上の次第であるから,本件文書の公開請求に対し,これを実施機関において保有していない(不存在)との理由で非公開とした本件処分は違法であって,取消しを免れない。
よって,原告の請求は,理由があるので認容することとし,主文のとおり判決する。

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